あのね、聞いて。
昔の話なんだけど。
練習場に走ってこなかった。
しかも遅刻した。
という理由で部室でいきなりしごかれた。
走らないといけないとか知らなかったし。
待ち合わせで連絡の行き違いがあったし。
なんて理由は聞き入れられるはずもなかった。
この時はまだ知らないけれど。
ここはそんな世界ではなかった。
ジャージに着替えて、練習がはじまる。
まずは基礎練習から。
発声。
手振り。
四股立ち。
これは毎日の基本の練習だった。
大きな声を出す。
発声を教えられる。
腹から声を出す。
腹から出さずにのどから出せば、いとも簡単に声はつぶれる。
つぶれると声が出なくなる。
先輩は、声をつぶすのも方法だなって言った。
つぶれれば腹から出さないと声が出ないから、声の出し方がわかる、と。
1日2本の四股立ちはきつかった。
生まれたての子鹿のようになっていた。
それからまずは学歌を教えてもらう。
いわゆる、校歌ってやつ。
これは本当に一番大切な歌で。
きちんと歌いこなせるようにならなければいけない。
1番、2番、3番まであるのだが、1番と3番しか歌わない。
他の応援歌などもそうだった。
何かそういう決まりでもあるのだろうか。
明日までに覚えてこいと言われた。
できなければ、連帯責任。
全てにおいてそうだった。
あとは応援団のルール。
そして、部の決まり、部訓についても教えられた。
部訓も必ずおぼえなければいけなかった。
ちなみに部訓で一番大切だったのは、部訓三条と呼ばれるもの。
『上司に対し絶対服従とする』
これこそが、黒いものでも先輩が白と言えば白いという、応援団の鉄の掟だった。
あと、気をつけと休めのやり方。
先輩の話の聞き方。
返事は『押忍』のみであること。
『押忍』の意味を知っているか?
と聞かれた時、沖縄出身の黒いやつが
???「押し忍ぶ、ですか?」
と言った。
先輩たちは、意味を知っているのか。
危ないやつだな。
と笑った。
普段はいい人たちだったし、おもしろい人たちだった。
けれど練習になったら厳しい。
応援団の社会だった。
学んだこと。
返事は『押忍』のみ。
先輩に話しかけられたら体ごとそちらを向き、気をつけで直立不動の姿勢。
先輩に話しかける時は『押忍、失礼します』で話しはじめ、話し終わると『押忍、失礼しました、押忍』で終わって礼をする。
1回生が4回生(幹部)に話しかけてはいけない。
4回生に話しかける時は3回生(準幹部)を通して話しかけなければいけない。
1回生はゴミ、2回生は奴隷、3回生は人間、4回生は天皇、OBは神。
団旗は聖旗、素手で触ることも前を横切ることも許されない。
素手で触っていいのは幹部とOBのみ。
とくに団旗の先の剣先は重要なもので、その先は聖域。
基本的に竹刀でしばかれる、鉄拳制裁や木剣(木刀)もあり。
嗚呼花の応援団はバイブル。
聖書のようなもの。
とんでもない生活が始まった。
聞いてくれてありがとう。
次もお楽しみに。
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